パナコ、小説を始めました!
こんにちは、パナコです!
パナコは最近退屈なんです、、、
飼い主さんは遊んでくれないし、お友達もいないから。。。
そこで私は思いついたんです!
小説を書こうっ!!!
ということで!今日から不定期で小説を連載していきます!
小説の名前は「かめい探偵パナオ」です。
物語のはじまり、第一話は「パナオ」です。
写真の下から始まります。ぜひ読んでみてね!
第一話「パナオ」
男は窓ガラスの向こう側を眺めていた。背丈の二倍以上はある一枚ガラスの向こう側には閑静な住宅街が広がっている。ところどころに見える木々は少しずつ赤みを帯びてきており、冷たい風が葉を乱暴に揺らしていた。少し上に目をやると富士の姿が小さく見える。男はこの季節にうっすらと見える、富士の姿を眺めるのが好きだった。缶コーヒーを片手に最上階から外を眺めるのが男の日課だ。右手に持ったコーヒーはほとんど空になっており、ゆっくりとその最後の一滴を喉へ落した。ふと下に目をやるとアスファルトの上をぱらぱらと歩く豆粒ほどの人々が見える。その中にひとり、何かを抱えて一直線にこちらへ走ってくる人影がある。男はそれに気づいたからか、視線を窓から離して、階段のほうへ向かって歩いて行った。
男は部屋に着くと、誰もいないことを確認して一番奥にある自分の席に腰かけた。まもなくして、男のいる部屋に向かってドタドタと足音が近づいてくる。それを聞いて男がため息をついたところでドアが大きな音を立てて開いた。
「久保口さん!見つけましたよ!」
そう叫んだ若い男は嬉々とした表情を広げていた。くるっとした毛先と、大きな目、そして切らした息がより一層彼の表情を豊かにしている。手には、純白の猫が抱えられていた。
「どれ、見してみい。」
そういって久保口は不機嫌そうにする猫を抱えて、壁に貼られた写真と見比べた。
「いやあ、ラッキーでしたよ!依頼主に聞き込みをしようと思ってお宅に伺おうとしたら、家の前にいるんですからね」
若い男はそう自慢げに言いながら、スーツについた猫の毛をパタパタとはたいた。久保口は何も答えずに嫌がる猫をじっくりと見つめて、また溜息を吐いた。
「あほ。よく見てみい。耳の裏に斑点がないわ。」
そう言って猫を返すと、久保口は頭を抱えて机に目を落とした。
「え!確かに確認したはずなんですけど。あれ、うーん、、、」
「その猫もとの場所に戻して、もう一回探してこい。」
独り言のようにそう言うと、久保口は重たそうに腰を上げて部屋を出て行ってしまった。若い男はいくぶん落ち込んだ様子で受け取った猫を抱えると、ソファーへどっと寝ころんだ。
「また失敗だ。」
そう嘆く男の毛先は先ほどより随分と重たそうに見える。男は天井をぼーっと眺めながら猫の頭を撫でた。猫は先ほどの表情とは打って変わって、気持ちよさそうに目をつむっている。
ひととおり猫を愛でると、男はいったん猫を離して部屋の隅にある水槽に目をやった。水槽といっても中に水はなく土が敷き詰められている。
「また失敗だよ、パナオ。」
男の視線の先にはカメがいる。
ここは小さな探偵事務所。この事務所は大学の研究所の一室にある。どういう経緯でそこにあるのか知る者はほとんどおらず、周りの人々からは煙たがられている。この事務所を取り仕切るのが久保口だ。取り仕切るといってもこの事務所には若い探偵見習いが一人とカメが一匹いるだけで、久保口はいつも退屈そうにしている。
ゆつ太は久保口の下で探偵として働き始めて2年になる。大学を卒業して何年かは弁護士を目指して勉強をしていたが、道半ばで諦めて久保口に拾ってもらった。人一倍正義感が強くまっすぐな男ではあるが、どうもパッとしない男だ。
カメは一年ほど前からこの事務所にいる。名前はパナオ。ヒガシヘルマンリクガメの二才だ。もともとは久保口が知り合いから譲り受けたものらしいが、家で育てるのがむずかしいという理由で事務所で飼っている。といっても飼育はもっぱらゆつ太の仕事で、久保口はたまに餌を上げるだけである。
「パナオはいつも真剣に俺の話を聞いてくれるな。」
パナオはそのくりっとした目でいつもどこかをぼーっと眺めている。見方によってはいつもけなげに話を聞いてくれる、やさしい奴だ。ゆつ太は仕事がうまくいかないと、こうやってパナオに話しかけながら餌をあげる。今日もいつもどおり餌を上げようと洗面台の下にある戸棚を開けた。ゆつ太は棚の中でいつも餌が入っているはずの瓶が空っぽなことに気が付くと、うれしそうに声を上げた。
「買ってこないと!」
ゆつ太は餌を買いに行くのが好きだった。仕事中であっても久保口はパナオの世話を許したので、昼間に散歩を兼ねて外に出ることができるからだ。そして何より、ペットショップの店員であるマモ美と話すのを楽しみにしていた。ゆつ太は先ほどのミスなどすっかり忘れて、連れてきた猫が部屋にいることも忘れて、ペットショップに向かった。
そのころマモ美は焦っていた。デスクから見える店長はいつもどおりに常連さんと世間話をしている。しかしその表情のひとつひとつがマモ美の心を見透かしているようで、恐ろしかった。マモ美の透き通るような白い肌もいまは青みがかって見え、冷や汗が滴っている。この状況を作り出したのは、ついさきほどまで隣にいた同僚のゲンだが、いまは何もなかったように小屋の掃除をしている。その無責任な態度と鈍感さにマモ美は苛立ちさえ覚えていた。しかし彼に罪はない。この状況を一人で解決できなければ彼女の今後は危うい。マモ美は激しく波打つ心臓を抑えながら決心を固めようとしていた。これは隠しきれない、店長に見つかる前に自分から打ち明けなければ。揺らいでいた気持ちが自白へと傾きかけたその刹那に、店長がマモ美を呼んだことで彼女の緊張はピークに達した。
「マモ美さん!ゆつ太くんがいらしてるよ!」
なんだ、ゆつ太さんか。まも美は安堵した。と同時に、つい数秒前に店長に打ち明けようと決めたマモ美の決心が揺らいだ。常連のゆつ太さんは探偵である。ゆつ太ならこの事態を解決してくれるのではないかと思ったからだ。彼の話によるとゆつ太さんはかなりやり手の探偵らしく、数々の難事件を解決しているらしい。マモ美は急に目の前が明るくなった感じがして、急いでゆつ太のもとへ向かった。
「こんにちは、ゆつ太さん。今日はお早いですね。」
「こんにちは!今日は事件が早めに解決して時間ができたので、休憩がてら来てしまいました。」
ゆつ太はマモ美の前だと息をするように嘘をついてしまう。最初は罪悪感があったけれども、今では何も感じなくなってしまった。その言葉を聞いてマモ美の期待感は更に高まった。
「ゆつ太さんはいつも事件を解決されていてすごいですね!」
そう言われたゆつ太は照れ臭くなって頭を掻いた。ただゆつ太はマモ美の異変に気付いていた。木枯らしが吹き始めたこの季節に、額に汗がみられるのだ。ゆつ太はこういった物事の変化を捉えるのに優れていた。いま彼が探偵事務所で働いているのも、久保口がこういった能力を買っているからである。ゆつ太はゆっくりと尋ねた。
「マモ美さん、どうかされました?」
マモ美はハッとした。まさか自分の異変を見破られるとは思っていなかったからである。マモ美はより一層期待を膨らませた。ゆつ太さんなら必ず私を助けてくれる、そう確信して気持ちはぐっと軽くなった。マモ美は店長に聞かれないように小声でゆつ太に言った。
「実は私、大変なことをしてしまったの。それで、探偵のゆつ太さんに相談したいことがあって。」
ゆつ太は焦った。探偵である自分にマモ美さんが相談をするのだ。マモ美さんに頼られたことは素直に嬉しいが、それ以上に自分には探偵としての能力が足りていないことを自覚している。ゆつ太が任される仕事と言えばせいぜいペット探しや浮気相手の調査などで、「大変なこと」などを相手にしたことは無いのである。しかしマモ美さんはそれを知らない。むしろ難事件ばかりを解決する名探偵ということになっている。ゆつ太は恐る恐る聞いた。
「大変なことというのは?」
マモ美は少しずつ語り始めた。
第二話へつづく